2014年10月24日金曜日

ジェット

アンティーク・ジュエリーにおいてジェットと言えば、ヴィクトリア時代後期、モーニング・ジュエリーとしてのイメージが強いですが、実際、ジェットの歴史はそれよりもずっと遡り、もっとも古いものでスイスやドイツの石器時代(1万年以上前)の遺跡から発見されています。ジェットが真珠と共に「最古の宝石」と呼ばれる所以です。

ジェットが装飾品として古代から使われてきた理由はその漆黒の輝きはもちろん、摩擦すると静電気を帯びるという特性にも寄ります。その神秘性ゆえに魔除けの意味合いをもって人々に重用されてきました。

古代ローマの時代、イギリスを征服したローマ帝国はそこの先住民族であるケルト人たちが身に付けていたジェットを「黒い琥珀」として見出し、取り入れました。リング、ネックレス、ペンダント等としてです。

その後ローマが滅びると、今度は中世キリスト教世界にロザリオ、クロス、として用いられるようになります。特にスペインではお守りとして広く浸透していたようです。


1861年、ヴィクトリア女王の夫君、アルバート公が亡くなるとジェットは今度は亡くなった人を偲ぶ、モーニング・ジュエリーとして大流行します。当時のファッションリーダーであったヴィクトリア女王が黒一色のジュエリーを身に付けていたものですから、側近のものは当然同様の格好をしなければならず、その影響は市民にも、そして海を越えてヨーロッパ全体にも及びました。

ヴィクトリア女王が喪に服していた期間は25年にも及びます。その間、主産地であるイギリスはウィットビーのジェットは、やはり高価な為、様々な類似品が生み出されました。ガラスでできた「フレンチジェット」、アイルランドの泥炭地で採掘される樫の木の化石を加工した「ボグオーク」、紙粘土を固めて黒く着色した「ペーパーマッシュ」、生ゴムを硬化させた「エボナイト」。
一般の市民はこれらの素材のジュエリーを代用品として身につけていたようです。

ヴィクトリア女王の喪が明けた1887年以降、イギリスのジェット産業は衰退していきます。
20世紀に入るころにはジェットの鉱山はそのほとんどが閉山され、やがて歴史から姿を消します。


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